2019年5月ギャロデット大学にて世界の仲間と(右から3番目が山本さん)

1.奨学事業による留学で学ばれた内容は何ですか。

第10期留学奨学生として、オーロニ大学で英語とA S Lを勉強した後、ギャロデット大学大学院で、ろう教育・初等教育を学びました。主に、ろう・難聴児にとって、より良いろう教育のあり方や理論、方法などについて学び、議論を重ねました。メリーランドろう学校の教育実習や、ケンダルろう学校の放課後プログラムのスタッフとして、米国のろう学校の実際の様子も経験しました。

米国カリフォルニア州フリーモントろう学校小学部の児童に日本の文化やろう学校などについて説明する様子。(2015年2月)
米国カリフォルニア州フリーモントろう学校小学部の児童に日本の文化やろう学校などについて説明する様子。(2015年2月)

2.留学前は群馬大学でろう教育を学ばれたのでしょう。国が違いますし、学部と大学院では内容が違いますが、米国留学を決心した大きな理由は何でしょうか。

群馬大学では、様々な障害種(聴覚、知的、肢体、病弱、重複、発達)の理論と指導法、教育的ニーズについて幅広く学び、教育実習やサークル活動を重ねてきました。ギャロデット大学は世界中からろう学生が集まり、彼らと様々な議論を重ね、ろう教育について更なる専門性を身に付けたいと思い、米国留学を決心しました。

3.奨学事業による留学を終えた後はすぐに帰国されたのでしょうか。

オペアプログラム*1を通して、米国で2年間デフファミリーの子どもたちと日常生活を共にしました。ろう学校の早期教育プログラムに保護者として参加、美術館や博物館などで開催されていた子どものためのプログラムに参加することで、米国のろう教育や地域コミュニティ教育の現状を知ることができました。お世話になったファミリーは、私にとって第二の家族であり、現在も連絡を取り合うかけがえのない存在です。

4.留学を終えた後、今までにされたお仕事・取り組みの内容は何ですか。(日本での活動、現在のお仕事など)

帰国後は、群馬大学手話サポーター養成プロジェクト室の研究員として、大学生への日本手話指導の講義のための準備補佐をしています。また群馬大学の非常勤講師として、ろう学生へ必修科目である英語リスニングの代わりとなるアメリカ手話言語(以下ASL)の講義を担当しています。他に、群馬県聴覚障害児児童クラブきらきら*2の活動参加、大塚ろう学校*3土曜クラブキッズ英語のファシリテーター、日本財団ワーキンググループ*4メンバーとしてアジア諸国の障害者の就労支援のための調査・議論を行なっています。

群馬県立ろう学校での手話絵本の様子(2020年11月)
大塚ろう学校キッズ英語、ASLでの会話やりとりの様子(2020年10月)

5.群馬大学は日本財団の助成を受けて手話言語の教育に力を入れていますが、他のどこでもない群馬大学がこの取り組みをしていることを山本さんはどのように捉えていますか。

群馬大学が2017年度から行っている日本財団「学術手話通訳に対応した専門支援者の養成」事業*5は、学生が手話通訳者になることを目指すだけでなく、ろう学校の教員になる上で必要な手話の基本的構文と文法を習得し、日常生活の話題について日本手話でやりとりする力を深めることを目的としています。さらに、ろう文化や倫理の内容も取り入れ、ろう者と関わる上で必要な知識と態度も身につけられるよう工夫しています。将来、ろう学校に配属された教員が、きこえない子どもたちの自然言語である手話を活用し、通常学校に準ずる教育カリキュラムを実践できる教員を目指しています。数年後、卒業生が活躍してくれることを今からとても楽しみにしています。

6.きこえない学生の英語リスニング代わりとなるASLの授業では主に何を教えているのでしょうか。やはりASLで日常会話ができることが目標でしょうか。それともリスニングと同じようにASLの動画を見て理解できるようになることでしょうか。

リスリングの代わりであることから、ASLの動画内容を理解し、自ら表現できることを目的としています。そして、ネイティブろう者との遠隔ビデオ電話を通して日常会話を行う機会も設け、国際交流の楽しさを実感してもらっています。

7.きこえない子どもの課外活動を手伝う仕事は山本さんが一番やりたい仕事ではないでしょうか。楽しいですか。

米国やASLに関する話をする時、子どもたちが興味深く学ぶ姿を見ていると嬉しくなります。彼らの知的好奇心を大切にし、コミュニケーション力を高めるお手伝いをしたいと思います。今後もろう者のロールモデルの立場として、きこえない子どもたちと楽しく関わっていきたいです。

8. アジア諸国の障害者の就労支援のための調査とはどのようなものですか。差し支え無い範囲でご説明ください。

日本財団は、長い間アジア諸国の障害者教育支援に力を入れてきました。次のステップとして、障害者の就労支援へシフトする目標のもと、様々な障害種の当事者が集結しました。財団が支援している事業を対象に、現在までの様子と今後の課題についてのヒアリングを通して、メンバーで新しい就労支援事業のための検討を行っています。

9. 奨学事業による留学終了から現在で何年目になりますか。

2017年に事業による留学を終えたので、今年で3年目になります。

10.「グローバル人材」という言葉があります。共生社会に求められる人材像としては、
(1)きこえない日本人としてのアイデンティティを確立していること
(2)外国の手話言語を含めて異なる言語を幾つか習得していること
(3)海外の様々な人と協調関係を構築できること
(4)国際的な視野に立って社会貢献するための知識と経験を備えていること

留学前、ろう学校や大学で、周囲へきこえないことや情報保障の必要性を伝える取り組みの中で、「ろうアイデンティティ」を確立してきました。留学後、様々な人種が生活する米国社会の中で、「日本人であること」を自覚しました。それぞれの国が、自国に基づいた教育の影響を受けているため、お互いに理解し合い、寄り添い生きることの難しさと、マイノリティグループが集まって声をあげ、社会へ訴えていくことの大切さを知りました。
私の場合、日本語・日本手話・英語・ASLの4つの言語を習得していることになります。日々相手と状況によって4つの言語を使い分けているので、不思議な気持ちです。英語とASLは、未だ自分の見解をきちんと伝えられるレベルに達しておらず、一生勉強だと思っています。
今後、日本やアジアのろうコミュニティと関わり、貢献するためには、大杉先生のおっしゃる通り様々な人と協調関係を築くことが必要です。現地の言語や手話、文化を尊重し、お互いが理解しあえる方法を模索していくことが、共存する上で大切だと思います。今までの私の人生から得た知識と経験を活かし、国際的な社会貢献ができることを目標として、これからも前進していきたいと思います。

11. 山本さんは大学時代にダスキン愛の輪基金の事業でフィジーに行かれていますね。この時の経験がグローバルへの基礎になっていると思うのですが、いかがでしょうか。

大学時代にダスキン愛の輪ジュニアリーダー育成グループ研修生として、大杉先生の引率のもと、フィジーのろう者との交流の機会に恵まれました。互いの文化紹介や現地のろう者リーダーの活躍を目の当たりにすることで、きこえないというハンデがあっても、国境や言語、文化の壁を超え、お互いに伝え合い、理解する姿勢を持つグローバルな視点を身に付けるきっかけになったと実感しています。*6

群馬県は、群馬県聴覚障害者連盟や群馬大学教育学部を中心に手話言語に関する取組が活発に行われています。山本さんが米国留学で得た知識と経験を群馬の地域で活かすことで、群馬のモデルが全国に発信されていくのだと思います。これからも頑張ってください。

参考文献

  • *1 オペアプログラムとは、米国政府認定プログラムで満26歳までの若者が現地のホストファミリーと一緒に生活しながら、子どもの世話をするベビーシッター制度。近隣のオペアとの交流や語学研修を受けることも可能。オペアプログラムの会社はいくつかあり、その中のエージェントオペアという会社のホームページ(英文)はこちら。
    Agent Au Pair (2019) Become An Au Pair
    https://www.agentaupair.com/au-pair-overview.html
  • *2 NPO法人きらきら (2016, April 1)
    https://gumadeafkids.tumblr.com
  • *3 特定非営利活動法人聴覚障害教育支援 大塚クラブ (2002, November 1) ろう学校.comへようこそ http://www.rougakkou.com
  • *4【障害とビジネスの新しい関係】障害者の社会参加を推進するワーキンググループ初集結。課題と取り組みに必要な視点を探る(連載第2回). (2021, February 3) 日本財団ジャーナルhttps://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2021/53413
  • *5 群馬大学 手話サポーター養成プロジェクト室 -日本財団助成事業「学術手話通訳に対応した専門支援者の養成」- (2014) https://sign.hess.gunma-u.ac.jp/
  • *6 ジュニアリーダー育成グループ研修生(聴覚障害者ユースグループプログラム)研修報告. (2011, August 23) ダスキン愛の輪基金(最後のところに山本さんの感想が掲載されています)https://www.ainowa.jp/news/2011/1112_03.html

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